ロザリオの祈り

主任司祭  藤 原 當 悟

昨年の十月十六日、教皇は使徒的書簡『おとめマリアのロザリオ』を発表され、今年の十月までの一年間を『ロザリオの年』と定められました。それに伴って、新たに第四環として「光の神秘」が追加されました。そこで、今回はロザリオについて述べます。

ご存知の通り、ロザリオの鎖の基本となる部分は、一個の単独の珠と十個の連続した珠で構成された「連」が五つつながって一つの環になっています。「一連」は十回の「天使祝詞」(聖母マリアへの祈り)の頭に「主の祈り」を付け、結びに「栄唱」を付けたものです。これを五回くりかえして「一環」となります。ロザリオの「連」のことを、英語では decadeと言いますが、これは十個を意味するラテン語に由来する語であり、ロザリオの祈りが「天使祝詞」を十回となえることを基本にした信心業であり、心と体、祈りと黙想を一体化し、しかも、老若男女を問わず、また健康な人はもちろんのこと、病気の人でも、電車や自動車の中でも、状況によっては仕事中でもたやすくできる信心業です。直接に神様に祈るのではなく、聖母マリアを通して、キリストの救いの業を黙想し、聖母に代願を願うものです。

一般に用いられているロザリオには五連の環になった部分に、十字架と単独の珠と三連の珠に加えてもう一個の単独の珠のついた鎖が三叉の金具によってつながっています。環に取り付けられた十字架のついた鎖の部分は、ロザリオの祈りの準備のためです。最初の十字架で「使徒信条」をとなえ、次の珠で「主の祈り」、三個続いた珠で「天使祝詞」を三回となえ、結びとして「栄唱」をとなえます。もう一個の珠は環から外れていますが、この珠がロザリオ本体の最初の主の祈りのためです。鶴見教会で用いられている祈祷書『祈りの友』(カルメル会発行)や、『目からウロコ ロザリオの祈り 再入門』(女子パウロ発行)などのロザリオの絵入解説では、その珠が「栄唱」のためとされたり、環と導入部分の鎖をつなぐ三叉の金具が主の祈りためとされたりして、珠と金具の混同が見られます。これらは明らかにまちがいです。ロザリオの最初の主の祈りの珠が環からはみ出していることによって一環の初めと終わりがよくわかるように作られています。三叉の金具は祈りの珠ではありませんので、お間違えのないように。

ところで、従来のロザリオの神秘(「奥義」または「玄義」とも呼ぶ)では、「喜びの神秘」「苦しみの神秘」「栄えの神秘」の三環で成り立ち、それぞれに五連ずつ黙想のテーマ(神秘)と祈りの意向が定められていましたので、全十五連でしたが、昨年、新たに「光の神秘」が追加されたことによって、全四環、二十連となりました。従来の十五の神秘については説明を省きますので、祈祷書を参考にしてください。

ロザリオの歴史

「ロザリオ」という名はロザリオの数珠をも意味します。ロザリオに数珠が使われるようになったのは十四世紀で、主の祈りや他の祈りを繰り返してとなえる際の勘定の道具として用いられていたものです。仏教でも数珠が用いられているように、他の宗教の間にも、似た習慣があります。

聖母マリアに対する信心が様々の要素を含んでいるために、ロザリオの祈りの歴史は複雑です。十二世紀に、マリアの五つの喜び(お告げ・誕生・復活・昇天・被昇天)と関連して、天使祝詞を繰り返えしてとなえる慣わしが生まれました。やがて、七つの歓喜が表れ、さらに十五連の喜びが案出され、詩篇の百五十篇に対応して、百五十回の天使祝詞をとなえるものが生まれました。そして、十三世紀から十四世紀にかけて、フランシスコ会員などによって、七つの悲しみ、マリアの七つの悲しみなどの信心が広まりました。他方これに反応してマリアの天上の喜びに対する信心も生まれました。

十四世紀には「ロザリオ」が花摘みとの関係で人の思いや詩を綴った小さな詩集などの呼称となりました。そして、福音書の「アベ・マリア」(おめでとうマリア)を詩節の終りにつけた一連の詩が「マリアのロザリオ」と」呼ばれました。

十五世紀に入ると、キリストとマリアの生涯の諸場面を百五十回の天使祝詞に付け加えてとなえるものが現れ、さらに十五世紀半ばになって、キリストの神秘の基本である受肉、御受難、復活を踏まえて、百五十回の天使祝詞が、「喜び」と「悲しみ」と「栄光」の三つの神秘に分けられ、今日唱えられているような形式が整ってきました。

ロザリオの霊性

 教会は教皇たちの口を通してロザリオの優れた面について述べています。ロザリオは大衆のための「教会の祈り」と呼ばれており、全福音の大要、神の子の神秘を中心に置いた祈りであり、マリアに対する連願の形をとった天使祝詞の唱え方はキリストに対する途切れることのない賛美であると教えています。さらに、リラックスして潜心して行われれば、キリストに最も近い方聖母マリアの目を通して主キリストの生涯を黙想し、また、観想することもできます。

 現教皇によって「光の神秘」の五連―@イエスの洗礼、Aカナの婚礼における最初のしるし、B神の国の到来を告げ、改心に招く、Cタボル山における変容、D最後の晩餐における聖体の秘蹟の制定―が加えられたことによって、詩篇百五十遍との数字合わせは崩れましたが、私たちを救いに導くキリストの生涯とその神秘はより充実したものとなり、福音の大要がより明確になりました。

結   語

 ロザリオは誰でも祈りの中心にすぐ入ることのできる、単純化された、しかも、心の持ち方によって、信仰の真髄に深く入り込むことのできる祈りです。心も体も一体となって、キリストの体に変容するために、聖体の秘蹟と併せて大切にしたい信心業です。一枚一枚のばらの花びらになぞらえて天使祝詞を繰り返してとなえることは単純な動作ではありますが、単純であるがゆえに、唱えながら私たちは潜心し、自分の信仰とその理解を深め、自分の生活と結びつけて祈ることができます。